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【チベッタン・ヒーリング:梅野泉】No15_男も女もない。本源のエネルギーとして表現されたがっているものがある。エロス

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チベット仏教でもそれ以前からチベットに根づいていたボン教でも、その懐に深く入っていけばいくほど、そこに息づいている女性性のいのちまるごと躍動するような強いエネルギーと湧きあふれ出る慈悲と智慧を感じないわけにはいかない。
そのよい例が、ターラ菩薩だ。こんな話がある。前世ではその方は「月姫」と呼ばれ、大変に信心も深く、生きとし生きるものを救いたいという気持ちも燃えるように激しいものがあり、菩提心の行でも素晴らしい成果をあげていた。それを見た僧たちは女性のままでは十分なことは出来まい、とこうアドバイスした。「来世は男に生まれて修行ができるように祈りなさい」と。それを聞いた姫は毅然とした態度でこう答えたという。
「本来は、男も女もない。男だ、女だ、のたわごとは、ただの二元論。私は女性の姿のままで菩薩となると誓う」と。
男性優位の僧院を向こうに回して、なんと潔い表明だろうか!
この誓願によって菩薩となった母なる仏母ターラ。21尊の姿で顕現するとされ、その一例が前回紹介したヴァジュラヨギーニ。ナローパの六法で有名なカギュ派の偉大なマスター,ナローパの明妃だったことでも知られている。
チベット仏教の開祖グル・リンポチェには、イシェ・ツォゲルという明妃がおられ、名だたる密教行者は、大抵は明妃とともにあって、数々のミラクルを起こしている。
そして、大成就者たちの伝記を読むと、最後は必ず「ダキニたちのパラダイスに昇った」と記されている。ダキニこそは、その並はずれた美しさとパワーゆえに、尊ばれ、親しまれ、また怖れられてもいる女神たちのことだ。変幻自在に空を自由に駆け巡る存在であることから、英語では「スカイ・ダンサー」と呼ばれることもある。
ある行法や法要などが成就すると、その場所だけ、急に天候が激変して大雨が降り虹が立ち上ることがある。日本でも来日中のラマの行く先々でそういうことが起きた。こんな時、ラマたちは決まってこう言われる。「天のダキニたちが歓び、祝福の花々を地上に投げている」と。
私たちが大島の火の神にターラダンスを捧げたその帰り道、いっとき、あれっ、と驚くような雨が降り、虹が出たのを思い出す。
チベットの女性で特筆すべきは、エゴを断ち切る、という意味の「チュ―」の行を体現したマチック・ラプドン。ドラムとヴァジュラ・ベルで魔を打ち砕き、独得のメロディで経文を唄い、一切衆生を慰め、悟りへと導いた。このすさまじいまでのカッコよさは何だろう!と思うほど憧れの女性である。
初めてチベット仏教に触れた折、瞑想の中にはっきりと現れたのが青い湖に映る雪山と、その上空を雲に乗って飛んでいる姿の女神だった。見たままをラマに伝えると、「それは間違えなくアッチだ」と教えられた。アッチはカギュ派の守護神で、勇壮な女神だ。
ボン教でも女神たちは大活躍だ。五大元素、地水火風空、それぞれをつかさどるダキニが存在する。そもそも、大自然と直結した女性性のエネルギーは、洗練された学問としての仏教よりも、プリミティヴな場で渦を巻き、流れ出してゆく。素のいのちそのままのありようだ。その全体をエロスと呼ぼう。私は、すべての女性たちのなかにダキニを見る。それは、花開こうとしている。そして、世界に向かって謎を問いかけ、「男も女もない。素のいのちの世界に目覚め、ともにダキニ・パラダイスを創ろうではないか!」と呼びかけるのだ。
数年前だが、チベットのダキニたちからエネルギーを受けて、「踊る女神」という散文詩を書いた。

女の胸が割れて、踊る女神が出現すると、その圧倒的なエネルギーの前で人生のあらゆるゲームは突然色あせる。女神たちは、怖れや不安、争いや虚偽をたからかな笑いで笑いとばし、「いっさいは妄念の幻影」と歌い、雷雲を呼び、雨を降らせ、虹となって消えてゆく。地上のあまりの苦しみに、女の胸はすでに割れている。あなたが踊る女神に気づかないのは、いまだゲームに夢中だからか?

これは「恋文」という詩画集の一篇。インド好きな方ならご存知かもしれないが、山岡昭男氏が編集されていた「天竺南蛮情報」という雑誌があった。ここに一年間連載した12編の散文詩をまとめたのが「恋文」(2014年制作、12編の詩と絵)。特定の人への恋文ではなく、森羅万象への恋文。絵はMAKOTO. 20代半ば、その絵に震えるほど感動した。

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この「恋文」はチベット仏教やゾクチェンから受け止めた金の塊のような教えを一度溶かし、森羅万象と私という存在とを繋ぐ楽器のようなものに作り変えたものだ。読者は、その楽器を自由に楽しんで、そこから響くエッセンスのようなものを受けとめていただければこれ以上の歓びはない。
「恋文」を購入希望の方は、FBの投稿やメッセージなどで梅野までご連絡ください。 

チベッタン・ヒーリング―古代ボン教・五大元素の教え

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  • 作者: テンジン・ワンギェルリンポチェ,Tenzin Wangyal Rinpoche,梅野泉
  • 出版社/メーカー: 地湧社
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