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【湧】禁煙列車

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 この六月十五日から東海道本線の全線全車両が禁煙車となった。たばこ嫌いな私は、これまで禁煙車両が増えるたびに幸せの空間が広がったと喜んでいた。実は私は幼少の時、気管支炎を患ったことがあり、そのためか平生はなんでもないのに、油断してたばこの充満する部屋に長くいると気管支が重苦しくなり、しばらくの間後遺症が続くことがある。若い時から喫煙はおろか東京の空気汚染の進行に恐怖を抱き、空気のきれいな地方に職を求めたほどで、環境問題には早くから敏感であったのもその辺からきているのかも知れない。
 その後何の因果か今では、東海道本線で毎日都心に通うはめになってしまっている。仕事上でも交友の場でもヘビースモーカーと会うのは苦痛なものである。しかしその人が断煙したときほど嬉しいことはない。
 さて、これほどたばこ嫌いな私でさえ、今回のJRの全面禁止措置にはどうも引っ掛かるものがある。愛煙家の人はどんな気持ちなのだろうか。公共のための禁煙といっても一両や二両の喫煙車を残してもいいではないか、そういう声が聞こえてきそうである。嫌煙者のためだけでなく、喫煙者用の解放区があってもよい筈だ。どうもこの極端な禁止策のうらに施行者のエゴが感じられてしかたがない。きれいで安全な環境づくりには、こんな安上がりで安易な方法はあるまいから。だが、国民の自由裁量の生活空間という大事なものをこんなに簡単に奪っていいものだろうか。教科書検定制度の統制強化や新型税制の設置など、いまの日本の政治をこの禁煙列車は象徴しているように思えてならない。(MM)(月刊「湧」1989年7/8月号再掲)