『湧』<blog magazine> nishitakesi

読み物、情報を発信するWebマガジン

【湧】砂漠に種子を蒔く

f:id:jiyusha:20190626222854j:plain

 自然農法の提唱者である福岡正信さんがこのたび砂漠を緑にする種蒔き指導者として、インド政府から招かれた。福岡さんは「その土地に緑が育つかどうかは人間が決めるのではなく、種自身が決めるのだから、ただ種を蒔けばいいのです」と言う。
 氏は四十年以上も前に突然、価値などというものは人間の妄想なのだと気が付いて、人為を次々に取り去る農業を試みた。その結果、耕さず、肥料を施さず、農薬を使わず、除草せず、穀物や果樹野菜作りの革命的農法を確立していった。世をあげて近代科学農法を取り入れていく中で、自然のままの農業に没入していく氏の姿は狂気の沙汰に見えたという。
 福岡さんの自然農法の背景は無の哲学であり、あるときは禅の世界の人に共感を得ようと門を叩いたが理解されず「ここは百姓の来るところではない」ととりあってもらえなかった。その後、近年になって公害や薬害問題で自然農法自体は脚光を浴び、ひとつの社会的傾向をリードしたがその哲学の本質はほとんど一般には定着せず、未だにアウトサイダー的存在である。
 ところが一昨年インドを訪れたおり、彼の地では日本と違って農業の専門家だけでなく、哲学や宗教の分野の人たちが大いに関心を寄せ、ヒンズー教および仏教の教義とまったく一致していることを理解してくれた。インドの人々は農法として技術的に多少の異論があったとしても、その哲学において正しければ支持を惜しまないということを知って、氏は大変喜んだ。
 昨年、福岡さんの自然農法とその哲学に対して、アジアのノーベル賞といわれるマグサイサイ賞が贈られている。(MM)(月刊「湧」1989年2月号)