『湧』<blog magazine> nishitakesi

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【湧】自然を守る道

 

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 山梨県の三ツ峠は優美な富士山を眺められる絶好の場所である。そこで古くから山小屋を営む中村璋さんは、自然に対する独特の愛情の持ち主であると聞いて訪ねた。そして中村さんが撮った山の草花のスライドをたくさん見せてもらいながら、大変ショッキングな話を聞いた。
 中村さんは数日前に、ある希少な蘭科の花を数十本、鋏で摘んできたという。その花は地味な色あいであるが、群生して開花するので目につきやすく、愛好家や金儲け目的の人に根こそぎ持っていかれて根絶やしになることがあるという。そこで、今が盛りの花を涙ながらに切ってきたというのである。
 このような植物は、偶然ともいえるほど微妙な環境のバランスの中で何十年何百年もかけて発生成長したものであるから、移植しても決して長生きせず絶えてしまう。
 山梨県では十八種類の採ってはいけない植物を条例で決めた。一般的によく知られているものでは、コマクサ、アツモリソウ、ユキワリソウ、ムシトリスミレ、キタダケキンポウゲ、キタダケトリカブトなどである。
 しかし県条例ができても全国全県が歩調を合わせなければ、知らずに採取、栽培してしまうこともあるだろう。実際私の知るところでも皮肉なことに、植物愛好家、自然愛好家に禁止植物の保有者がいる。今、毎日二種の動植物が地球上から姿を消していると言われる。自然の仕組みは人問の手ではどうにもならない、ということをみんながほんとうに知ることしか自然を守る道はあるまい。 (MM)

(月刊「湧」1988年11月号再掲)IndiraFotoによるPixabayからの画像