【ポエタロ:覚和歌子】「扉」ショートショート・エッセイ
ずいぶん昔、慌てて開けた玄関扉の角で、待っていた叔母の右足親指を怪我させてしまったことがある。
叔母は裸足のサンダル履きで、明くる日テニスの試合に出場することになっていた。
「いたたたったったっ」とケンケンした叔母の苦しみよう。
試合の結果は当然良くなかったらしい。
あれから扉を開けるのに必要以上に慎重になって(ほとんど怯えて)いる自分がいる。
足の指、というのがポイントなのだと思う。
おでことか、ひざ小僧とかではなく、足の親指。
厚い硬い爪が頼もしく守る足の親指。
それを損なうほど迷いのない力の入れ方で、扉は勢いよく開け放たれたということだ。
何にそんなに盛り上がっていたのか私。
開けるための扉だけれど、開けないほうがいい扉もある。
(ポエタロガーデン 再掲)