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【湧】青い目の密教僧

~何事も体当たり、でもムービーとフィルムが違うとは~

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 長い歴史の中で女性を遠ざけてきた真言密教の本山高野山で、外国女性としては初めての尼僧が誕生した。スーザン・ノーブル・タナカさんが高野山尼僧修道院に入学したのは一年前である。連日朝二時から夜九時に及ぶ百日行など、その修行内容は相当厳しいものであったらしい。アメリカという論理社会に生きていた彼女にとって、耐え難い問答無用の劇的場面もあったという。それでも落伍せずに卒業して、案じていた私達の前に元気な姿をみせてくれた。
 スーザンさんは、自然豊かなオレゴン州に生まれ、敬虔なカトリック教徒の両親の下で育ち、地元のポートランド大学で歴史を学んだ後、ニューヨーク大学で映画評論を専攻する。その中で小津安二郎の日本映画に出会い日本の文化に深い関心を抱くようになる。その後日本の国際基督教大学に留学し、勉学の傍ら座禅を通じて仏教の世界を知る。帰米後今度は真言密教に縁を結ぶ。こうして日本の文化に触れて僅か十年足らずのうちに、日本文化の深部まで体当たりで入りこんだ。
 どちらかというと寡黙なスーザンさんは、映画の話になると熱弁家になる。「ムービーとフィルムの違いわかりますか?ハリウッドなどで作られる商業主義の作品はムービー、人々の生活の真実を描く芸術作品がフィルム、両者は本質的に違うんです」と彼女は言う。
 このフィルムに夢を描く生活感覚は彼女の宗教生活に如実にあらわれている。いま、アメリカのバーモント州には九万坪の農地をもつ道場が彼女の帰りを待っており、宗門の守りの仏教から、庶民の日常生活にとけこむ仏教へと彼女は自らの実践で示そうとしている。 (MM)(月刊「湧」1988年4月号再掲)