『湧』<blog magazine> nishitakesi

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【湧】観光地

~最終的には、観光地も心の問題~

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 大分県の山中にある由布院温泉は天然自然と人の心に恵まれた超一級の観光地である。この地を訪れる人は火山性の山々の精気に包まれて、居ながらにしていのちの蘇生力を感ぜずにはいられない。それに加えて茅葺や瓦屋根の木造の建物がゆったりと配置温存されている静かな町のたたずまい、自然味を活かした心のこもった料理の数々など、何度訪れても心安らぐよい地である。
 この町の古い旅館である亀の井別荘の主人中谷健太郎さんは三代目である。中谷さんのおじいさんが七十年前、辺境であったこの地に別荘を造り、人を招いて語り合ったのがこの宿のはじまりであった。訪れる客には精一杯のもてなしをし、その客から諸々のものを学ぶという姿勢は地域の人々にも受け継がれ、今日の魅力的な環境づくりに活かされている。
 先日、中谷さんは、食養研究家の東城百合子さんと百姓医者の竹熊宜孝さんを招いて講演会を開いた。ここの町づくりの歴史がそうであったように、人間と自然が響き合ったとき、その町の魅力が創り出されていく。それを「土」の次元からつなぎたいというのである。この会には農家や町中のさまざまな人が集まり、その関心の高さがうかがわれた。
 講師の両先生は技術的方法論よりもむしろその元になる心の問題について多く語られた。この町に心を感じたからであろう。
 「訪れる人、招く人が互いにその人の光を観じあう、その場を観光地と呼んだらいいのではないか」というのが中谷さんの持論である。 (MM)

(月刊「湧」1988年1月号再掲)Michelle MariaによるPixabayからの画像