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【チベッタン・ヒーリング:梅野泉】No3_死とは五大元素の溶解

  愛を語る前に死を語らなければなりません。死が、五大元素を知る近道だということに私はハッとしました。愛は、私にとって、死の先にあるものだったのです。

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  1985年、私は一人のチベット人僧侶に出会いました。それはまるで事故としか呼びようのない衝撃的な出会いでした。
 当時の私は、まだ若く、未熟で、あてどのない孤独を抱えたまま芸術的才能の輝きを恋人と自分のなかかに見出すことだけで人生をごまかそうとしていました。
 そんな私の前に何を意図することもない無作為な乱暴さで立ちふさがったのがチベット仏教高僧のアヤン・トゥルク・リンポチェだったのです。それは今までの人生で触れたことのない未知なるもの。遠いチベットという国。えんじ色の衣。西洋的でも日本的でもない、文明の歪みを感じさせない身体。そのあまりにゆったりとした非装飾的な語り口。五大元素というコトバも、このとき初めて聞くものでした。未知なるものの核心は、つまるところ、「意識の転移」という想像を絶する密教の身体技法でした。

 「伝授」(チベット語ではルン、英語でTransmission)がはじまり、リンポチェが経典を流れる音楽のように詠み始めると、途端に私の身体はいまだかつて感じたことのない感覚に襲われ、連続して様々な「いったいこれはなんだ!」としか表現しようのない現象が現れました。激しい神秘体験もあったのですが、子供の頃に経験した神秘体験とは全く別の感覚でした。いずれにしても、それらは現象にしかすぎず、こだわるものではない、ということがすぐに理解されました。
 そうです。ここでは五大元素の話をしたいのです。前回ふれた通り、「意識の転移」とは死に際して阿弥陀浄土に意識を転移させる技法です。そして、経典を通して「死とは何か?」を学ぶのです。

 リンポチェは言われました。
「死とは五大元素の溶解である」と。なんとシンプルで美しい語りだろうか、と私は思いました。「死とは心臓の停止や、内臓の機能不全や、呼吸の停止などではないのだな」と。咄嗟に私は五大元素がいかにも有機的な生命というものの全体を表すコトバであることを掴みました。そして、まさに五大元素はいのちの成り立ちそのものだったのです。
 
 「まず、地の元素が水の元素に溶け込む。地の元素は肉や骨。このとき、人は身体が重いと感じる。そして谷底にでも落ちるかのような感覚がある。頭がドンドン下に落ちてゆくように感じることがあり、枕を高くしてくれ、ということがある」。
 「次に水の元素が火の元素に溶け込む。水の元素は血液や体内の水分。このとき,鼻血が出たり、排泄がある」
 「次に火の元素が風の元素に溶け込んでゆく。火の元素は身体の熱。このとき、身体の熱は下がり、身体は冷たくなる」
 「最後に風の元素が空に溶け込んでゆく。風は息、呼吸。このとき呼吸が止まる。外なる呼吸がとまっても、まだ内なる呼吸はある。その間の時間は、遊牧民の私たちが枝を拾って火をおこしお茶を沸かすくらいの時間だ。そして、意識体が身体の9つの穴から、または頭頂の10番目の穴から抜けていくのだ。もちろん、修行者であるならば、10番目の穴から抜けてゆくことが望ましい」。
 この10番目の穴を頭頂に穿つことで「意識の転移」の通り道をつくることになるのです。
行が成就したしるしとして、頭頂に血が出ます。
 9つの穴とは2つの目、2つの鼻孔、2つの耳、口、それから下半身の2つの穴のことを指しています。
 身体の穴という考え方も、チャクラも脈管も、初めて耳にすることばかりだったのですが、伝授の後のリンポチェとの面談で成就したことを告げられました。
 母は娘の頭頂からわずかとはいえ,丸い点を描いたように血がにじんでいるのをみて、腰を抜かしてしまいました。
 リンポチェによれば、阿弥陀仏の加持によりプラクティスを重ねれば多くの人にしるしがでるそうです。けれど、こんなに早くにしるしがでるのは特別なカルマによるもので、脈管がきれいで汚れていないからだ、と伝えられました。また前世で師と弟子の関係であったに違いない、とも言われたのですが、このときの私には一切がチンプンカンプン。

 「これっていったいなんなんだ⁉」という理屈では到底とけない身体の現象とは別に、10日間リンポチェの法話と行の実践に通ううちに、死がこんなにも親しみ深いものとして感じ取れたことに不思議な安心感を覚えたのでした。本当にそれは、古い衣服を脱ぎ捨てるようにこの肉体を脱ぎ捨ててゆくだけのこと、と実感されるのです。
 
 そして、長い間、わたしを悩まし続けて脳裏から離れなかった「意識とは何ぞや?」という問にも光が差したような気がしたのでした。

 次回は意識のことも含めて、五大元素といのちの誕生について書いてみたいとおもいます。生と死がつながっていることが、はっきりと見えてくるのです。

(文責と画像は梅野泉による) 

チベッタン・ヒーリング―古代ボン教・五大元素の教え

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