『湧』<blog magazine> nishitakesi

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【湧】佐藤さんの庭

~都会では、少し自然を感じる庭も贅沢ですが、、、~

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 「なんと季節感のないところへ引越してきてしまったんでしょう」としきりにぼやいていた妻が、数軒先にかわった低い石垣のある家を見つけ、そこのご主人に中の庭を見せてもらったという。とにかく面白い庭だからいってみてごらんなさいというので出かけてみた。

 熔岩を自分で積んだでこぼこの石垣の間には、見れば見るほど色々なものが植わっている。ぎぼうし、かるかや、かわらなでしこ、われもこう、たつなみそう、へびいちご、ホトトギス、今花のついていない、しゅんらん、くまがいそう、ゆきのした、などいちいち書きならべたらゆうに「湧」一冊分にもなるほど、ただの草が生えている。十メートル四方くらいの庭の中にも、じゅず、まつむしそう、おみなえし、などの下に丈の低い草々がところ狭しと生えているが、ご主人にとってはいちいちあるべくしてそこにあるもののようである。
 よく見るとその中にあちこち素焼きの鉢がたくさんあって、その一つの鉢に二つの名札がついているので尋ねてみると、「三年前にまいた種がまだ出ないので、別の種をそこにまき、来年あたりは両方いっぺんにでてくるかも知れないと思って待っている」という。これらの草々はとってきたのではなく、種をもってきてまいたものばかりである。見なれない花の名を尋ねると、「この花はちょっと派手で面白くないけど葉の色がいいねえ」とおっしゃる。ご主人佐藤さんが「いいねえ」と思ったものが集まっている。学術的価値や商品価値とはまったく無縁、同好趣味的なものさえ感じられない、裏山をそのまま連れてきたような大きな秋の庭である。
 (MM)

(月刊「湧」1987年10月号再掲)