『湧』<blog magazine> nishitakesi

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【湧】感性の閾値

~“遠当て”で、21Cは芸術と宗教時代になれた?~

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 日常的にはあまり使われていない言葉であるが、閾値という用語がある。「生体に興奮を起こさせるのに必要な最少の刺戟強度」を表わす専門用語である。

 現代人の多くは、エネルギーをより多く確保し使うほど、大きな幸福が得られると信じて、過大な刺戟を必要としているから、いまや人間の感性の閾値は急上昇の時代といえよう。

 

 こうした時流の中で新体道の創始者である青木宏之氏は、長年の念願が叶ってこの二月に東京小石川に新道場を開設した。青木氏は、からだと心の結びつきについて、伝統的な武道や芸術・宗教に学びながら、自身の感性を磨き、その闘値を極度に下げることを体現し、人間のからだの可能性の素晴しさを示した。青木氏の表現の一つに、離れている相手を自在に動かす“遠当て”という実技がある。

  かつて氏の実技をみて超能力とか神秘主義、あるいはまやかしといって、興味を持ったり揶揄したりした人もいたが、最近は電子測定器機が進んできたので、青木氏の能力の実在が科学者の目にも明らかにされ、国際的にも関心を持たれはじめている。人と人や人と自然の間に見えない糸で呼応する感性の存在は、いまでは非日常的となったが、逆に知識の少なかった太古の時代はだれもが感性を豊かに備えていたのであろう。

 

 だが、前途が悲観的であるとは限らない。最近の調査によると、日本人は、仕事よりも趣味の生活に憧れる人が増えているという。また、超能力や神秘への関心が高まったり、自らのうちに独自の力を見つけようとする傾向がある。そしてこういった念願をあからさまにできる時代にもなっている。没個性を強いて感性を鈍らせる現代的価値観を拒否し、人々はいつの間にか無意識に感性の闘値を下げることの方に加担し始めたのかも知れない。


 二十一世紀は芸術と宗教の時代になると言われている。(MM)
(月刊「湧」1986年3月号 再掲)